"NOOK IN THE BRAIN TOUR"

2017.6.3 赤坂BLITZ LIVE REPORT

the pillows「NOOK IN THE BRAIN TOUR」の前半戦、6月3日(土)・東京 赤坂BLITZ公演を観た。これは3月8日(水)にリリースされた21stアルバム『NOOK IN THE BRAIN』を携えて、5月からスタートした全国27公演を回る全国ツアーの11公演目となる。


場内が暗転すると同時にステージに向けてグッと押し寄せる観衆。同時に湧き上がる怒号にも似た歓声と悲鳴。結成28年目にして欠かさず開催されてきたツアーの中でも、BUSTERS(the pillowsファンの名称)のボルテージはトップクラスのハイテンションだ。ツアー4公演目の渋谷TSUTAYA O-EASTでも感じたことだが、ツアー冒頭からこの熱狂的な歓迎ぶりの要因は何なのだろう。その答えは3つ挙げられると僕は思う。

そのひとつは、新作に掲げられたテーマがきちんとBUSTERSに届いている、という確信だ。the pillowsは結成以来、バンドが進みたい方向性と周囲が期待する方向性とのギャップと戦い、きちんと自分たちの道を進み続けてきた。その精神が"困難に対して自分なりのスタンスで立ち向かう"というテーマの楽曲と相まって、高い支持を集めてきたバンドだ。妥協することないそのスタイルで結成20周年には日本武道館公演を即日完売させた。しかし2012年に、バンドの状態、情熱が万全でないことを"メンテナンス"するために活動休止という荒療治を選ぶ。シーン帰還にあたり、アルバム『STROLL AND ROLL』で"ふらふら散歩するように楽しもうよ"というテーマを掲げ、永くバンドを継続するために新たな境地を示し、サウンドもロックンロールを基調とした曲が中心となった。そんなこれまでの経緯から一転、本作『NOOK IN THE BRAIN』は、"絶対的に解決できない状況下で、自分をどう錯覚させるか。状況が変わらないなら、どうやって楽しく生きていくのか。自分の脳みその端っこを辿って、角度を変えて脳内に楽しみを見出す"という、一見難解なテーマが掲げられた。しかし、世界を見回しても日本の状況を見ても、これまでの常識が通用しない"不確実な時代"を生き抜くスタイルとして、実に説得力のあるテーマとして届いたのではないだろうか。そしてロックンロール中心だった近作と比較して、the pillows史の変遷のなかで重要な意味合いを持つオルタナティブ・ロックが主役となる本作が、アニメ「フリクリ」に起用されたことで日本を超えて世界で歓迎された時期の"個性"と、同じ片鱗を感じたのではないか。

ふたつめの要因は、メンバー間の笑顔溢れる良好な関係性だ。結成された1989年、KENZI AND THE TRIPSで一世を風靡した上田健司(b)と佐藤シンイチロウ(ds)が新たなバンドを結成するにあたり、北海道で才能を発揮していた山中さわお(vo,g)を誘い、同じく北海道のバンドで人気を博していた真鍋吉明(g)が加わって結成されたthe pillowsは、スタート時から音楽的キャリア、年齢がバラバラな4人が、音楽スキルを拠り所に活動してきた。リーダーの上田が脱退し、3人でバンドを継続する判断をしたときも互いの技術を必要としたからで、山中は常に「バンドは仲良しである必要はない」というスタンスだった。しかし活動休止を経て、経験を重ねるなかで"今の俺たちでやっていく方法をみつけていく"という決断をして、神経を張り詰めるのではなく楽しくやっていくという結論に達して、前述の『STROLL AND ROLL』のテーマに辿り着いたように、メンバーの仲の良さが最近とみにステージ上から伝わってくる。BUSTERSにとって、この傾向は実に嬉しい。

そしてみっつめ。ストレートな愛情溢れる優しさを表現した楽曲が登場してきたこと。このツアーから会場限定で発売されているシングルの表題曲「どこにもない世界」や、新作に収録された「ジェラニエ」など、このツアーでも演奏されている歌世界が会場中に染み渡る雰囲気がなんとも素敵だった。世間に溢れる応援ソングとは一線を画す、生きる上で支えになってくれる言葉の数々がthe pillowsナンバーの真骨頂だったが、実直な優しさが切々と歌われる曲の誕生で、さらに幅広い支持を生み出している印象が強い。今日も「ジェラニエ」の演奏が終わると山中が「アルバムの中でもきっと君たちは「ジェラニエ」を気に入ってくれたんじゃないかと思ってる。ほんとに心のこもった、愛情のこもった、そして今思う"希望について"みたいなテーマで、とてもthe pillowsらしい曲が出来たなと思ってる」と語っていた。あくまで私見だが、このツアーを観て思った絶賛の要因3つを挙げてみた。

オープニング・ナンバーからボーカルの熱量を自在にうねらせて、場内を煽りまくる山中さわお。それに感化されて拳を突き上げ感情をむき出しにするBUSTERS。ガチンコの気持ちをぶつけあって今日の手ごたえを感じ合う両者。激しい。 「久しぶりじゃないか! みんな元気かい?」。お決まりのMCのあと、珍しく山中が「いえーい!」と繰り返し絶叫。普段決してやらないパフォーマンスは、サンシャイン池崎を意外なタレントたちが真似するさまをコミカルに取り入れた山中の遊び心であることがのちにわかるのだが、それにも割れんばかりの声援で応えるBUSTERS。「なんか今日人気あるな、俺たち」ととぼけた山中が「もしかしてついに売れるかもしれない」と自虐的なMCで笑いを誘う。「今夜、『NOOK IN THE BRAIN』はもちろん、懐かしい、きっと聴きたいと思ってくれる名曲もたくさん演るから最後まで仲良く楽しく、よろしくね」と宣言。その通り、このツアーは新作からのナンバーと、これまでの曲のバランス、つなぎ方が最高に気持ちの良いセットリスト。イントロが始まるたびに歓声やため息が漏れる反応もわかる気がした。高感度のBUSTERSの反応に感化されるように、モニターに登ったり、ジャンプしたり、ギター・プレイの合間で胸を拳で叩く山中のパフォーマンスにはグッとくる。

次の曲間でチューニングする際に場内が静かな様子をみて「あっと言う間に人気がなくなったじゃないか」と茶化して「久しぶりなんだからちやほやしてくれよ、おい」と笑いを誘う山中。ご機嫌な様子がツアーの充実を感じさせる。続けて真鍋に「あんたは悪い男だよ」と話しかけ、徳島公演のリハーサルで佐藤がサングラスもせず無地の白いTシャツをズボンにインしてる風貌が"休日のジジイ"感ハンパないことを指摘すると、『でもさっきpeeちゃん(真鍋)に"ジェームス・ディーンみたいだね"って言われたよ』と返されたエピソードを披露して爆笑を誘う。佐藤も続けて「徳島のアンコールでその恰好で出た訳ですわ。そしたら『ジェームス、ジェームス』って大人気だったよね」。笑顔溢れるステージ、仲の良さもハンパない。次のMCでは「うちのジェームス・ディーンはいよいよ来週、Theピーズで武道館です」と山中が紹介し、the pillowsとTheピーズでドラムを担当する佐藤にエールを送る。

後半には山中がギターを置き、ハンドマイクで2曲。ステージ左右を激しく動き回り、フレーズに合わせてフリをつけて踊るパフォーマンスが秀逸。真鍋の背後に回って絡むシーンも仲の良さを感じてしまった。そのまま力強いロックンロールとオルタナティブがうまく交差して、ちょいちょい挟み込まれる「いえーい!」の絶叫がさらに興奮を煽っていた。

まだまだ観たい感情を抑えきれない拍手に促されてアンコールに応えたあと、ステージにひとり残り、語り始めた山中。その内容は、詳しくは各ライブ会場で直接体感して欲しいが、これから企画されている活動の予告だった。それはバンドとして実に素晴らしい志で、その企画を観られる日が今から待ち遠しいと思った。

前半から大充実している「NOOK IN THE BRAIN TOUR」がファイナルに向けてさらにどれだけ素敵なステージになるか期待しながら、そのあとに始まる企画も楽しみにしながら、これからもずっと彼らの活動を追いかけていきたいと強く思った夜だった。

取材:文/浅野保志(ぴあ)