the pillows「ハッピー・バースデー」Special Interview

笹川:
さて、続いて、シングル3曲目に収録された『クオーター 莫逆(ばくげき)の友』について。これこそ、思いっきり今のピロウズのことを歌った曲だと僕は感じました。ミディアム調のグッとくるタイプの名曲であり、タイトルに「莫逆(ばくげき)=気心が通じ合っている友」という意味の言葉が入っていて――で、歌詞の中では、「あともう少しだけ 少しでも先に進もうか」とバンドとして先に進むことを歌いつつ、さらに「頭上にはきっと咲き誇る星が 何も言わずに輝いてるだろう」と続きます。ここで歌われている景色は、ファンならモロに「これは『Please Mr.Lostman』の景色じゃん!」と気付くわけで…。
山中:
まあ、そうでしょうね(笑)。
笹川:
さらに言えば、「ねえ 憶えてるかい 孤独と自由について 大きな声で歌った」とは、名曲『ストレンジ カメレオン』の歌詞を受けていまして…。
山中:
はい(笑)。まさに。
笹川:
この辺は意図的に引用したフレーズなんでしょうが、となると、その背景にあった思いとはどういうものなんでしょうか?
山中:
いや、特に深いものでもなく。…なんて言ったら怒られるのかもしれないんですけど(笑)。これはね、ソロのツアー中にホテルで書いたものなんです。「このツアーが終わると、ピロウズも復活するな。そろそろだなぁ…。で、カップリング曲はどうしようか?」なんて思っていた頃で――さっき話したように、曲はたくさんできていたんだけど、全部A面みたいな曲で、シングルのカップリング的な曲がないから、それは書かなきゃな、と。そんなことを考えながら書いていったら…何か、サラッとこういう歌詞になったと言うかね。
笹川:
へぇ。では、わりとサラッと、こういう歌詞が出てきたわけだ?
山中:
はい。さほど苦労しないで書けた歌詞ですね。だから…、その背景に何があったのかと問われると「…何があったんだろう?」と自分でも考えちゃうと言うか。ホント、別にそのときに思ってたことを書いたって感じなので――。
笹川:
ただ、ここで引用された『ストレンジ カメレオン』も『Please Mr.Lostman』も、90年代の、ピロウズが今とは違った形でバンドとしてグアーッと上がっていく時期に生まれた重要曲じゃないですか。「その頃の精神状態を思い起こそうよ」とか、そういうバンド内メッセージと受け取れなくもないんですが?
山中:
それは…気付きませんでした(笑)。もっと普通に、それこそピロウズを代表する単語は“ロストマン”みたいなことで出ちゃったのと…、あと、ツアー中に書いた歌詞なので、あのツアー中に『ストレンジ カメレオン』を弾き語りでやったりしていたので、スッと出ちゃったんでしょうね、言葉として。
笹川:
ありがたい味が薄い答えだな(苦笑)。でね、そんな楽曲に“クオーター=4分の1”というタイトルを付けたことも意味が深そうだなと。この歌の最終部分で、いろんな“Quarter of ○○○”のフレーズがリフレインで歌われます。「Quarter of mates」「Quarter of lostman」…などと歌われ、最後の最後で「Quarter of a century」=25年。ここに来て「なるほど! 25周年ということも含んで書いた歌詞なんだな」と気付くわけですが?
山中:
そうですね。その「Quarter of a century」で 終わるといいかな、と思って書いたところはあって。何か…バラバラに見える点が、だいぶ時間が経ってからスッとひとつの線になる、みたいな作り方なんですよ。全部が全部、「あっ、これは都合がいいな。うん、こう来ると都合がいいよな」という感じで進んでいくんですよね。 今までのピロウズって、考えてみると、絶対“3”でカウントしてきたんです。ピロウズの剣のマークも“3本のP”で作ったものだし、(イメージキャラクターの)バスターくんも3色だし。それを今回、クォーター、つまり“4”という数字を持ちだしてきたのは…まあ、一緒にソロツアーも廻って改めて思ったんだけど、もはや淳(長くサポート・ベーシストを担当してきた鈴木淳)も入れて、4分の1だよなと、クオーターでカウントするべきだな、と思いながらやってきたっていうことです。要は、淳を含め、今回のソロツアーに参加してくれたマニアックな、コアな人たちを“莫逆(ばくげき)の友”と呼びたいな、と。
笹川:
なるほど、そういう意味合いもあったという。で、もう一曲、今回のシングルには『都会のアリス』という曲が入っています。これは他の2曲とは全くタイプが違う、遊び心満載の曲で――過去のピロウズの曲で言えば『Ride on shooting star』辺りを彷彿させる、ハネたビートの、歌詞もいい意味で意味不明な曲であり、これはこれでピロウズ節満載の曲に仕上がったわけですが?
山中:
これはもう、なんてことはない曲ですよ(笑)。何か…ロックンロールの上っ面の部分を、ピロウズなりに演奏するとこうなるっていうか。
笹川:
ホント、こういうのをサクッと演るのがうまいバンドだよね?
山中:
(笑)というか、今はみんな、こういうロックンロールをあんまりやらないからね。
笹川:
ちなみにこの『都会のアリス』に関しては、初回盤のDVDにPVも入ってますけど、アレが最高にカッコいい仕上がりでした。
山中:
ああ(笑)、PVはおもしろいっスよね。あのキッズ・ダンサーのヒップホップが――。
笹川:
そう! うまいよねぇ、あの子供たちは。
山中:
あのふたり(ちびっこの男女が各一人)、エグザイルのスクールの子なんですよ。日本人で、12才で…。
笹川:
でもダンスがすっごいキレッキレっていう。
山中:
そう! まさに、キレッキレだよね。
笹川:
そんな彼らにつられてか、何か、山中さんのダンスもいつもより切れ味鋭い気がしつつ…。
山中:
いやいやいや(苦笑)。こっちはもう、一曲演奏して、息が切れっ切れですよ(笑)。でも、あの子たちは、あれだけ踊っても何でもなくて。しかも、彼らは何テイクもやってるんですよ。僕とキッズ、シンイチロウとキッズ、真鍋君とキッズ…と、メンバーそれぞれに一緒に映る場面があるので、その分、何度もやっているのに、全く疲れた様子もなく踊ってて。しかも礼儀正しく、可愛らしいっていう、すごくカッコいい二人でした。
笹川:
いずれにせよ、とてもピロウズらしいセンスが溢れたPVだなと感じました。ああいうのは山中さんがディレクションするんですか?
山中:
『都会のアリス』の方はそうでしたね。アレは、『ハッピー・バースデー』と同じ日に、2曲同時にルーシーっていう監督さんに撮ってもらったんですけど、『都会のアリス』は本当にサクッと…多分、1時間もかかってないんじゃないかな? ただ、『ハッピー・バースデー』の方はすごく長くかかって――朝まで撮影がかかったから、ちょっと大変でしたけど。 で、『都会のアリス』は、結構、画質も良かったかな。70年代のテレビのような走査線も感じつつ、色もピントも甘いんだか何だか、現代の映像ではないような、でもただノイズを入れたんでもないし、フィルム感を出したわけでもないっていう、すごく絶妙な質感で撮ってくれたので…、カッコよさが倍増したような気がしますね。
笹川:
あの楽曲の異空間的な世界観とマッチした感じですよね?
山中:
そうですね、本当に。いい出来だと思います。
笹川:
はい。…というニューシングル『ハッピー・バースデー』でリ・スタートしたピロウズなんですが――この後、リ・スタートした後のピロウズがどう動いていくつもりなのかを聞かせてほしいなと。結成25周年イヤーに突入、っていうタイミングでもあるようですし。
山中:
そうですね。そこは…まあ、フェイドインって感じでしょうね。今年はともかく、本格的にアレコレやるのは来年でしょうから。
笹川:
ちなみに、今年に関して今、決まっている予定としては?
山中:
11月・12月に、7大都市のワンマンツアーをやります。それは、何の規制もない、「ロストマン・ゴー・トゥ・シティ」っていうライヴシリーズで――。
笹川:
ああ、結構マニアックな選曲が特徴のツアーね?
山中:
そうそう。ただ、今回は、普段よりはマニアックじゃない方がいいのかな、と思ってますけど。なにせ、レギュラー活動をしてなかったので、久しぶりに見る人がたくさんいるでしょうから。
笹川:
ピロウズとしてのツアーは、それこそ1年半ぶりになりますか。
山中:
ええ。だから、キメの曲も入れつつ、いろんな曲をバランスよくやろうかなと思ってます。
笹川:
で、そのツアーを行ない、年が明けたら、いろんな企画ものでアニバーサリーを彩る感じになりそうですか?
山中:
そう…なりますかね(笑)。何か、普段はやらないような楽しいことをいっぱい考えてます、って感じかな。
笹川:
しかも、アニバーサリーだし、歴史を感じさせてくれるものになるんでしょうね。
山中:
そうですね。まあ、昔からのファンはそれなりに楽しめるようなものにはなると思いますよ。
笹川:
分かりました。そこで何をやるのか僕も楽しみにしつつ、何より、こうして元気なピロウズの山中さんにインタビューできたってことが大きいので――。それを音からも、また、ライヴも動き始めたことを確認できて、よかったです。
山中:
…ちなみにね、実は昨日、とてもいい曲ができたんです!
笹川:
(笑)さんざん「良い曲がいっぱいあるんですよ」とか言ってたくせに、まだ新曲が生まれてきていますか?
山中:
そうなんですよ(笑)。軽くアルバム1枚作れる分くらいはあったんだけど、「これはきっと、次のアルバムの要になる曲だな!」って感じられる新曲が昨日できて――。そのおかげで今日はちょっと寝不足なんですけども(笑)。
笹川:
でも、そうやって夢中になれる曲がまたできているってことが、何よりも健康な証拠じゃないですか。
山中:
そうですね。確かに。
笹川:
その新曲の完成も待ちつつ、年末のツアー、そして来年、結成25周年の動きを楽しみにしていますよ。
山中:
はい。ぜひ期待していてください!

このインタビューの完全版は9/7発行の『cast vol.48』でご覧いただけます。

http://www.joyfultown.jp/cast/