RETURN TO THIRD MOVEMENT!
Vol.2

2018.05.06-06.23

LIVE REPORT


the pillows「RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2」のツアー・ファイナル、2018年6月23日(土)・那覇 Sakurazaka Central公演を観た。

“1997年発表の5th『Please Mr.Lostman』と1998年発表の6th『LITTLE BUSTERS』という2枚のアルバムを全曲演奏する”という「Vol.1」は、2017年11月8日から12月15日まで全国8公演即日ソールドアウト。当時を同じ気持ちで過ごしたBUSTERSはもちろん、この世にまだ生を享ける前だった若い世代まで駆けつけ全国を熱狂の渦に巻き込んだ。そして19年前の1999年にリリースされた2枚のアルバム、7th『RUNNERS HIGH』、8th『HAPPY BIVOUAC』を全曲披露する「Vol.2」は、2018年5月6日から6月23日まで、規模も公演数も拡大して全国12公演。それでも観たくても観られない会場が多発した。

RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2 - 那覇 Sakurazaka Central

当日の昼、ホテルのテレビでニュースが「今日、沖縄が梅雨明けしました」と告げた。普段、東京で生活する自分にはかなり堪える暑さだ。ステージからやや縦に長い場内は、地元・沖縄からはもちろん、会話から察するに全国各地から単身で乗り込んだBUSTERSも飲み込んで超満員。客電が落ち、SALON MUSICの「STOMPIN’ WHELL」に促されてメンバーが登場すると、耳をつんざくような歓声が沸き起こった。アルバムと同じジングルが流れ「Sad Sad Kiddie」でライブがスタートした。

「久しぶりじゃないか。来たぜ、沖縄!」。続いて山中さわお(vo、g)は「最初から話長いね」と笑いを取りながら、なぜこのツアーのファイナルが沖縄になったのか、その経緯を丁寧に語った。21thアルバム『NOOK IN THE BRAIN』のツアーで沖縄を訪れたとき、MCで「RETURN TO THIRD MOVEMENT!」の企画を話したら盛り上がってくれたこと、新作を携えたツアーならラジオのキャンペーンや雑誌にも出てプロモーションするのに、今回はSNSの告知くらいだったから“人気がない”と想定してたこと、MCをしたその時点でツアーに沖縄のスケジュールが入っていなくて心痛かったことを告白。「「Vol.2」にも沖縄入ってなかった。「NOOK~」で盛り上がってくれたから、どうしてもやりたい!って言った結果、スケジュールがおかしいことになって最終日になりました! イエーイ!」。そんなメンバーの想いを知り、すごい歓声で応える沖縄BUSTERS。 「話長ぇけどやめねえよ(笑)。沖縄の人に“飛行機乗って九州まで来いよ”って酷だな、と思って...、会いに来た!」。前半は『RUNNERS HIGH』の曲をアルバム収録順とは異なる、ライブで聴くと気持ちいいセットリストで次々に披露していく。

RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2 - 那覇 Sakurazaka Central

「「Vol.1」、この2枚は聴いてる人は知っての通り、地獄のような曲ばかり(笑)。その2枚が評価を得たことで少し僕たち機嫌が良くなりました(笑)。今回(「Vol.2」)の方が暗い中で光を感じ始め、希望の歌が多い」と自己分析。このアルバム4枚を生み出した当時のthe pillowsが、苛立ちを抱えながら自分たちの信じる道を模索し、自分たちらしい音楽性やスタイルを確立していった時期であることが、20年近く経った今、改めて証明されたと納得できるツアーだ。

「この歳で演る曲じゃねえんだよ!」。「Advice」の演奏が終わると曲の激しさと暑さで思わず呟いた山中は、続けて「『HAPPY BIVOUAC』が出たのは99年。今から19年前。その頃アメリカのオルタナティヴ・ロックに夢中になり始めた。the pillowsを結成した頃は俺たちイギリスの音楽ばかり聴いていて、90年代後半でそろそろお腹いっぱいだなって思った頃から、キム・ディール率いるザ・ブリーダーズが大好きで。それまで知らなかったアイデアを自分なりに理解して、染み込ませて、新曲をいっぱい作った。すごくはっきり誰かの影響を受けて曲を作っても、いつの間にかゴールに辿り着いたときにはthe pillowsらしさが芽生えて。その方程式の中で一番自慢の曲を演るよ」と前置きして「カーニバル」。当時の音楽的嗜好と曲作りの方法が語られることで、バンドの変遷を体感できる醍醐味も味わえた。

RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2 - 那覇 Sakurazaka Central

「いやぁ、声の調子がいいなぁ」。「Our love and peace」を終えると「最後の高音、ヘビメタみたいだもんね(笑)」と、はしゃぐ山中。バンドの状態も、「Vol.1」「Vol.2」と全国で熱狂的に迎えられたツアーの充実度も相俟ってか、いつも以上に笑顔溢れるメンバーたち。そして本編最後のMCが秀逸だった。「「Funny Bunny」はリリースとなった当時、とてもひっそりとした曲だったんだけれども、いろんな人の愛情を受けて、魔法がかかって、そしてライブではキミたちが気持ちをひとつにして大きな声で歌ってくれるから、99年よりも今の方が輝いているような気がする、ありがとう」と語った山中。まさにこの言葉が、29年に渡るバンド・キャリアの大半を、新作を作りそれを携えてツアーを廻るというスタイルに専念してきたthe pillowsが、自分たちのターニングポイントである作品にスポットを当てて全曲演奏するという、今回初めての企画をやると決めた理由なのだと思った。生み出した曲を受け止める側が魔法を架けて成長させ、聴く側はその曲に救われたり牽引してもらうことでthe pillowsがかけがえのない存在になっていく。そのキャッチボールを重ね続ける関係性がたまらなく愛おしく感じた瞬間だった。

RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2 - 那覇 Sakurazaka Central

アンコールに応えて登場した4人。「19年前の曲をたくさん聴いてもらったので、アンコールは新曲を聴いてもらいたい。“「ストレンジ カメレオン」作ってからもう20年以上経っているけど、まだそんな曲を作るの?”って突っ込まれそうなタイプの曲なんだけれども、“キミたちが世の中の安っぽい悪意に負けんじゃねえぞ!”っていう気持ちを込めて「ガラテア」という曲を聴いてくれ」。最新シングルに収録されているこの曲は、ポエトリーリーディングの手法で、ひとつひとつ言葉が心に突き刺さる。このキャリアして今もこんな刺激的な曲を発信し続けることに改めて圧倒された。続いてシングル「NO SELF CONTROL」のカップリングでアルバム未収録の「Nightmare」のイントロが繰り出されると場内からは悲鳴にも似た歓声があがる。

さらなるアンコールに促されて登場した山中は「ありがとう。めちゃめちゃ暑かったけど楽しかったよ」。続けて「俺たち来年30周年だ。30周年は20周年のときみたいにちょっと張り切って大きいところでやるから、そのときはちょっと遠いけど会いに来てくれよ」とアニバーサリーへのお誘いを。そして穏やかな表情で語り始める山中。「29年間、俺たちはずいぶん自分勝手にバンドをやってきた。流行を気にしたこともねえし、もし気にしても俺多分わかんない(笑)。評論家が言ってくることを真に受けたりしねえ。そしてオルタナティヴ・ロックが好き、と口にする時点でもう表彰台に登る必要はない。そう思ってきたし、今でも思ってる。けれど19年前のアルバムをさ、未だに聴きたいと言ってくれる人が北海道から沖縄までこんなに居るなんて、それだけで俺たちは本当に立派な金メダルを受け取ったような、そんな気分です、ありがとう」。このMCには泣けた。自分たちの信じること、信じる人だけを拠り所にしてきたthe pillowsが、全国のBUSTERSに直接会いに行って、まさに沖縄という場所でこの言葉を届けた瞬間に居られた幸運。いつまでもいつまでも鳴りやまない拍手に、一瞬山中が感極まったようにみえた。実際どうなのかはわからない。でも一瞬だけ客席に背を向けた。そして吐き捨てるように「19年前にひっそりと全く日本で流行ってないオルタナティヴ・ロックをやってよかったよ。俺たちのバンド人生は幸せだ。ありがとう」と吐露した山中。本音だろう。当時、自分たちの信じた道を貫くことがどれだけ困難だったか。脳裏になにか浮かんだとしても不思議ではない。

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再びアンコールに応えて登場した山中、真鍋吉明(g)、佐藤シンイチロウ(ds)、サポートの有江嘉典(b)の4人が缶ビールで乾杯。「なんでひとりだけもう缶開けてんだよ!」とシンちゃん(佐藤)にツッコミながら、この2タームに渡ったツアーの成功を噛み締めているようだ。「Vol.2」の日程に当初、新潟、青森、松山、沖縄が入ってなくて急遽加えた経緯や、9月に“とてつもない”ニュー・アルバムがリリースされること、それを携えて3ヵ月に渡るツアーに出ること、来週からミュージック・ビデオの収録に入ることなど、ツアーが終わることが名残惜しそうに、止め処なくBUSTERSに語りかける山中。peeちゃん(真鍋)も、前々回のツアーでギター・アンプのトラブルに見舞われたときにBUSTERSに優しくしてもらったことを「あのとき嬉しかったんだ~」としみじみ振り返った。そして30周年アニバーサリーで「絶対キミたちが想像してない面白いことをやります」と宣言する山中。「だから「RETURN TO THIRD MOVEMENT!Vol.3」はとてつもなく先になるんだけど、やったら来んのかよ、お前ら!」と手荒い歓迎ぶりは相変わらず。

まだまだ収まらないアンコールに引っ張り出されて「I think I can」で大団円を迎える前に「そう言えば来月からすごい久しぶりにアメリカ・ツアーに行ってくる! ボストン、NY、シアトル、ポートランド、サンフランシスコ、ロサンゼルス、全公演即日ソールドアウト! しかも一番小さい会場が千人くらい。アメリカのBUSTERSをやっつけてくるよ!」と高らかに宣言した。the pillowsが29年に渡ってこだわって辿り着いたBIVOUACには、日本国内に留まらず海の向こうからもBUSTERS(=理解者)がたくさん集まっている。確かにthe pillowsのバンド人生は幸せだ。同じ瞬間を共に歩める僕らも幸せだ。

取材:文/浅野保志(ぴあ)